映画「今夜、ロマンス劇場で」

 観ました。
 結末をハッピーエンドにするということ、についてあれこれ思いました。
 以下、ネタバレ感想です。

 
映画「今夜、ロマンス劇場で
 始まりは現代、余命宣告を受けた老人。孫が毎日見舞いに来ている。
 老人はかつて映画監督を目指していた。傍には書きかけの脚本がある。どんな物語なのですか? 看護士に尋ねられゆっくりと語りだす。
 映画の中から飛び出してきた王女様と、映画監督を夢見る青年・健司の物語……。

 王女役の綾瀬はるかさんがもう最高だ。居丈高な物言いなのだけれど、彼女の持つ上品さがまさに王女様なので、そりゃそうですわ、と納得してしまう。この納得させ感がすごいのだ。
 考えてみれば、彼女の世界で彼女は王女様ですけれど、こっちの世界に出てきた以上は、何の権力も持っていない普通の女性。いやモノクロの世界から出てきた彼女はこちらの世界に来てもモノクロ状態でお化粧で自らに色を付けてカラーになっているのだが、そういう小道具を使わなければ普通でさえない奇異な人物である。健司の協力がなければ生きていかれないのだが、そうであるのにそこに引け目を感じて態度を改めたりしない。健司に一度見放されそうになっても、やはりどこまでも王女様らしく気高い。見ているこちらとしてはあなたはこんなに迷惑かけているのだから、もう少しあるだろうが! という気持ちにならないわけではないが、それでも勘違いした高飛車で嫌味な女ではなく、王女様だもんな仕方ないよな、と思えてしまう。むしろ、絶対不安はあるはずなのに、一貫してその態度であることがかえっていじらしくあるほどである。キュートである。綾瀬はるかさん、もう素敵すぎる。

 ストーリーについては健司の映画監督志望というのがとても効いている。
 健司は王女と自分のことを脚本にする。それが映画会社の社長に認められ、採用される。ただし、ラストは再考するようにとの条件付き(どういうラストになっていたのかは不明。会話からまだ考え中の様子)。
「ハッピーエンドで頼むよ」
 それが出された条件である。
 健司は脚本も、現実の王女との恋もハッピーエンドにするべく、王女にプロポーズする。「ずっと傍にいてください」。王女は嬉しいとしながらも「一緒にはいられない」と拒否する。
 実は王女は秘密を抱えていた。こちらの世界に来ることの代償に、人に触れられたら消えてしまうという宿命を背負っているのだ。前半部分で彼女は「気安く触るな、無礼者」と何度も言う。王女であるからこその態度なのだと思っていたが(それもあるだろうが)、かたくなにまで触れられるのを嫌がった理由が判明する。
 好きな人に触れられない。
 悲しんでいるとき、手を握ってあげることもできない。
 王女は健司はもっと普通の恋をするべきだと告げる。そして、最後に一度だけ抱きしめてほしいと頼む。
 健司はそれを受け入れて、王女に触れるーーーーーー。

 ここで、場面は現代に戻る。
「え、それでどうなっちゃったんですか?」
 看護士は老人に尋ねる。だが老人は笑いながら
「実はこの物語はここまで。未完なんだ」
「えー、ここからが気になるんじゃないですか。完成させてください! 私、読みたいです」
 そんなやりとりをしていると、老人の孫が室内に入ってくる。
 看護士は挨拶をして出ていく。
 にっこり笑って立っている孫ーー王女様。
 微笑み返す、老人――健司。

 実は健司は結局王女には触れなかった。ぎりぎりで、触れるのをやめて、触れられなくてもいいからずっと傍にいてほしいと。王女はそれを受け入れる。
 ふたりは触れ合うこともないまま、年月を重ねる。
 年老いていく健司と、年を取らない王女。
 やがて二人は祖父と孫と思われるほど見た目になっていた。
「脚本を完成させる。君が望んでいたものをあげよう」
 健司はそういい、執筆に入る。

 やがて運命の時が来た。健司は静かに命の尽きるのを待っている。傍には王女の姿がある。
「最後に、もう一つ私の我儘を聞いて」
 意識がなくなるギリギリ、王女は健司に触れる。
 その手を握り返す健司。
 ゆっくりと消えていく王女、そして命が尽きる健司。
 約束の通り、最後の最後の瞬間まで一緒にいた二人。

 翌朝、看護士が健司の部屋に入ってくる。窓際に脚本がある。
 自分と王女の物語を完成させている。
 看護士は脚本の最後のページを開く。

 健司は王女の世界へ。
 ひざまずいて一輪のバラを差し出す。モノクロの世界のはずが、そのバラにだけ色がついている。王女が驚きバラに触れると、王女の世界に色がつく。
 健司と王女。見つめあう二人。口づけを待つ王女。それに応える健司。
 健司の脚本の中で、再びめぐり合い結ばれる二人。
 今度は永遠に、ずっと共に。

 この物語を、どこで終わらせるのか。最高潮のときに余韻たっぷりに終わらせるなら間違いなく、若い頃の健司と王女のやりとり。最後に一度抱きしめて、あそこで健司が王女に触れて、暗転。身分違い(この場合は世界違いだが)の恋は結ばれない。それでも十分成立している。むしろ、その後を描くことで蛇足になる可能性は高い。だけれど、この作品はその後を書いた。
「ハッピーエンドで頼む」
 この脚本はお蔵入りしてしまったが確かにそう頼まれたのである。
 健司は結局夢であった映画監督にはなれなかったけれど、自分を幸せにしてくれた映画の主人公である王女が自分の元に来てくれた。映画への愛が思いもよらない形で成就し、だから、そのお返しに映画を幸せにしたとも思える。
 見事にハッピーエンド、文句のつけようもない、ハッピーエンドである。

 あと、個人的に北村一輝さんがよかったです(笑)。
 悪人が出てこない、優しい映画でした。